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RubyWorld Conference 2012 開催趣意書

Rubyはプログラミング言語であり、本来はソフトウェア開発のためのひとつの道具に過ぎません。島根在住の日本人によって設計され、世界に広まったRubyは、ソフトウェアの生産性を高める道具として人気を高めてきました。

しかし、人工とは言え、言語であるRubyは人々が想像する以上に大きな影響力を持ちます。言語学では「サピア・ウォーフ仮説」というものがあって、人はその使う言語によって思考に(ある程度)影響を受けるのだそうです。プログラミング言語にも似たような傾向があると思います。プログラミング言語には、その周辺にイディオム・哲学・資産がともない、それが文化となってそのユーザーに影響を与えるのです。

Rubyの持つ文化の筆頭格と言えば、オープンソースです。その誕生からオープンソースソフトウェアとして開発されたRubyは、自分自身がオープンソースであるのみならず、Rubyを用いて開発されたたくさんのオープンソースソフトウェアの存在により、オープンソースの思想に基づいた文化圏を構成してきました。今までの「商品としてのソフトウェア」に馴染んできた人々には、無償で自由に配布されるソフトウェアのあり方はなかなか理解しがたく感じられるかもしれませんが、Rubyは多くの人に対して、今までとは違うソフトウェア開発のあり方への入り口となってきました。

Rubyの持つもうひとつの文化は、アジャイルです。アジャイルとは「俊敏」という意味で、今までの硬直化しがちなソフトウェア開発手法を改めて、顧客のニーズによりそう形での柔軟なソフトウェア開発を目指す思想です。アジャイルが登場するきっかけとなった2001年の「アジャイルソフトウェア開発宣言」が発表された時、そこに署名した17名のソフトウェア開発のオピニオンリーダーたちのうち、Ruby書籍の著者、Rubyファン、Rubyに好意的な人が多く含まれ、合計すると実に半数を越えるという事実は、Rubyとアジャイルの親和性を示していると思います。

このようにRubyという道具は人々を新しい文化に導きつつあります。4回目にあたる今年のRubyWorld Conferenceでは、英語圏において最初にRubyを取り上げた書籍の著者であり、17名のアジャイル運動発起人のひとりもであるDave Thomas氏に基調講演をお願いしました。RubyWorld Conferenceは、単なる技術としてのRubyだけではなく、アジャイルを始めとしたRubyが開く新しい世界に皆さんを招待します。

Rubyアソシエーション理事長
まつもとゆきひろ